歳をとると多少のボケは誰にでも起こります。
私なども、ついさっきまで考えていたことをすぐ忘れるようになりました。
ときには冷蔵庫の扉を開けてから「さて何を取りに来たのだっけ」となることもあります。
心理学者によると、人間は扉を開けるという行為で状況が一新されると別の新しいことを考えるようにできていて、その切り替えの際に直前まで考えていたことを忘れてしまうのだそうです。
別室にものを取りに行ってドアを開けた時や、外出しようとして玄関から出たときにもそのようなことが起きるようです。
歳をとると記憶の固定が弱くなり、そうした外部からの刺激で簡単に今まで考えていたことを忘れてしまうのでしょう。
この程度のボケだとそれほど害はなく、忘れていた目的もしばらくすると思い出すのですが、それがひどくなると認知症です。
脳の海馬神経細胞は歳をとっても増殖しますが、神経細胞間の接続(シナプス)が減少します。
シナプスが減少するということはネットワークの更新がおこなえなくなるだけではなく、これまで作りあげたネットワークが壊れていくことを意味します。
高齢になると新しいことを覚えられなくなるだけでなく、記憶の呼び起こしもうまくいかなくなる、すなわちボケるのですが、その原因はシナプスの減少なのです。
さらに歳をとると海馬の神経細胞が老化し、ネットワークの崩壊も著しくなり認知症となります。
シナプスの可塑性
可塑性とは外から入ってくる刺激によって変化することができるということです。
学習によって知識が増え、練習によって技能が向上するのは脳の神経細胞ネットワークが刺激によって変化していくからです。
主な変化は神経細胞ネットワークの新規形成と再構築、およびシナプスにおけるシグナル伝達効果の変化です。
シナプスでの伝達
シナプスにはシグナルが何回もそこを通ると伝達効率が上昇するという性質があります。
軸索末端から神経伝達物質が放出され、それが次の神経細胞上の受容体と結合することでシグナルが伝わるのですが、それが繰り返し起こると神経細胞が受容体の数を増やし、神経伝達物質が結合しやすくなる、すなわちシグナルが伝わりやすくなるのです。
学習を繰り返すことでいろいろなことを覚えるのは、シナプスのこの性質を使っていると考えられます。
一方で、繰り返しシグナルが伝わると神経細胞末端の神経伝達物質の量が減り、伝達しにくくなることもあります。
しょっちゅう叱られていると「耳にタコ」ができ、少々のことを言われても応えなくなるのはこのせいかもしれません。
神経回路によっては軸索の末端に別なる神経細胞の軸索末端がシナプスを作って刺激を与え、神経伝達物質の放出量を増やすことによってシグナルが伝わりやすくすることもあります。
特別な出来事があった日の夕焼けの色が強く記憶に残る、などといった二つの出来事が結びついた記憶はこうしたシナプスによるものでしょう。
物忘れの原因もシナプスにおける伝達性能の劣化だと考えています。
これは記憶がなくなってしまったのではなく、そこへ到達する経路をしばらく使っていなかったため、あるいはその経路を構成する神経細胞の老化のため使えなくなり、記憶していたことを意識の上に引き出すことができなくなった状態ですす。
別なきっかけから忘れていたことをひょっこり思い出すことがありますが、それは別の経路をたどってみたらその記憶にたどり着けたということなのです。
脳内の神経細胞ネットワークは複雑につながり合っているので、そのようなことが起こります。
「老化と脳科学 より」
*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+
脳は、体の機能全般をコントロールしている司令塔ですが、加齢とともにその働きは衰え物忘れの症状が出てきます。
脳血管の動脈硬化を放っておくと、血液循環が悪くなって脳細胞の動きが低下し、記憶力や思考力などが鈍り物忘れがはじまります。
40歳を越えた頃から「ど忘れや物忘れが激しくなった」「人の名前がなかなか思い出せなくなった」などと物忘れを感じるようになるのは、脳機能低下のあらわれです。
脳の神経細胞は約140億個といわれ、25歳を過ぎると1日に10~20万個ずつ死滅していきます。
死滅した神経細胞は再生されず物忘れもひどくなります。
しかし、死滅した神経細胞は元に戻らなくとも、神経の通り、すなわちネットワークをよくすれば、低下した機能を補い、さらには高めることができ物忘れも改善されます。
記憶のネットワークを活性化する働きをしているのが、脳の海馬という組織であることはよく知られています。
その海馬には、アセチルコリン系神経が集中しているのです。
脳が老化し、萎縮してしまうアルツハイマーとの関係はとくに深く、アルツハイマーの脳ではアセチルコリンが減少していることから、アセチルコリン不足がアルツハイマーのひとつの原因とも考えられています。
アセチルコリンの合成にはコリン、ビタミンB1、ビタミンB12などがかかわっています。
同時にこれらの栄養をとることが、アセチルコリンを増やすことにつながるわけです。
通常、コリンはレシチン(フォスファチジルコリン)のかたちで、食材から摂取されます。
レシチンはアセチルコリンの材料になるだけではなく、細胞膜の材料にもなっています。
とくに脳の神経細胞の細胞膜にはたくさん含まれていて、多彩な働きをしています。
血液にのって運ばれる栄養の細胞内へのとり込みや細胞内の老廃物の排出、神経伝達物質の放出や情報ネットワークの形成といった、脳の機能全体に深くかかわっています。
これが、レシチンが「脳の栄養素」と呼ばれるゆえんです。
そのレシチンを多く含んでいる食品の代表が卵黄です。
なお、レシチンをアセチルコリンに合成するには、ビタミンB群が欠かせないため、同時にとることが望ましいのです。
その中でも重要なものがビタミンB12なのです。
アルツハイマー型認知症の患者の脳脊髄中にはビタミンB12が少ないことが確認されています。
ビタミンB12について?
http://www.endokoro.com/libra/vitamin01.html
※ちょっと使える身近な情報をお届けしています!