第5章 高齢期こそ「長い目で見る」力を鍛える
第5章 高齢期こそ「長い目で見る」力を鍛える
物事を長い目で見ることができるのも、高齢者の有利な点だと思っています。
若くして出世することや、目先の勝負に勝つことに必死になる人生を送ってきた人でも、歳をとってくると、「あんなにあくせくしないで、もっと先のことまで考えればよかった」と思うようになることは多いと思います。
学歴がなくても成功している人はたくさんいますし、出世競争に勝たなければならないわけではありません。
最後に笑えればいい、生き残ることが大事だ、という発想に代わってくるのではないでしょうか。
20代後半で最初の本を出して以来、比較的しぶとく生き延びているほうだと思います。
40代に入って以降は、毎年コンスタントに20~50冊ほどの本を出してきています。
世の中から「消えない」ということが、取り柄だと思っています。
売れっ子ではなくてもずっと消えることなく、こうして毎年20冊以上の本をいまだに出せることは、それなりに自慢してもいいことなのかもしれないと思えるようになりました。
長く生き延びるこということは、ずっとチャレンジの機会があるということです。
もしかしたらこの先、ミリオンセラーが出ることもあるかもしれないし、そうなったとしても、そこで終わりではないと思っています。
人間は目の前にあることにとらわれていると、先の結果が見えなくなります。
精神科医の森田正馬さんが創始した、「森田療法」という心の治療法があります。
森田療法の最大の特徴は、不安をもつ人から不安を取り除こうとするのではなく、不安を抱えたままどう生きるかを考えようとすることです。
森田療法では、患者さんがいま悩んでいる症状そのものを治そうとすることはしません。
それよりも、その症状をなくすことで結果的に本人はどうなりたいのか、たとえば顔が赤いという症状を治したいのは、結果として人に好かれたいからだということに目を向けさせます。
そして、その望む結果にアプローチする方法を考えます。
顔が赤いのが治らなくても、人に好かれる方法を考えさせ、実行に移させるのです。
そのように、長い目で見るということは、目の前のことではなく、その先にある結果に目を向けさせることができるということです。
たとえば、お孫さんの中学受験で、自分の娘や息子が、お孫さん本人の気持ちを無視して、いい学校に入れるために必死に勉強させようとしているとします。
そんなときに、
「無理に勉強させてその子が勉強嫌いになったら、大学受験もうまくいかなくなるだろうし、この先の人生でずっと苦労することになるよ」
と伝えるのです。
それこそが、長い目で見る能力を持つ高齢者の価値です。
長い目で見る能力の重要性は、歳をとるほど増していきます。
高齢期こそ、長い目で見る力を鍛えたほうがいいと思います。
短期的な結果だけで物事を判断する癖が直らない高齢者もいる一方、長期的な展望をもっていて、「そうは言っても、5年、10年たってみないとわからないよ」と言える高齢者もいます。
だてに歳をとっていないと感じさせるのは、やはり後者です。
高齢者には、無駄に歳をとっている人と、だてに歳をとっていない人がいます。
品格ある高齢者になるとは、すなわち、「だてに歳をとっていない人」になるということにほかならないと思います。
「老いの品格 品よく、賢く、おもしろく より」
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脳の中では、運動会のリレーのように、神経がバトンをつないで、指令を伝達していきます。
しかし、たとえばC地点の神経細胞が倒れてしまい、指令がそこで止まってしまう、という事態が起こります。
このとき、すぐにC地点の神経細胞を救出できれば復活したのですが、時間が経ち、死んでしまって、その指令も届かなくなる。
これが運動麻痺や言語障害の起こる理由です。
ところが、脳のすごいところは、C地点から今度はほかのルートでバトンを渡そうとするのです。
新たなルートで、新たなリレーのチームを作り、「言葉を話す」という指令を伝えようとします。
この新チームは、以前のチームのようにバトンの受け渡しがうまくなく、スムーズに指令が届きません。
しかし、何度も繰り返し練習するうちに、だんだんうまく指令が伝わるようになっていきます。
このようにして、死んでしまった神経細胞は復元しないけれど、ほかのルートで代用できれば、言葉がある程度話せるようになり、失語症もよくなっていくというわけです。
ニューロン同士が情報伝達を行うこと、つまり神経機能的連絡を行うためには、新経路の交差点ともいうべきものが必要であり、この交差点をシナプスと言います。
このシナプスは、歳をとっても増加し、より成熟した結合が進行するとされています。
高度の創造過程にも高密度のシナプス形成が必要と思われ、そのためには、それに必要な素材として神経系構成成分、つまり栄養成分が必要なことは当然で、また、その構築作業のための酵素、そしてそれを補佐する補酵素的ビタミンも必要となります。
その中でも重要なものがビタミンB12なのです。
脳科学の発達によって、さまざまなことがわかり、新たな試みがされています。
ビタミンB12について?