ストレスに立ち向かう最前線のコーピング

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ストレスに立ち向かう最前線のコーピング
 
 厳しい訓練を乗り越えた宇宙飛行士たちは、想定外の危険な状況にも冷静に対応することができます。
ある意味で、世界で最もストレスに強い人たちの集団です。
そんな宇宙飛行士であっても、知らず知らずの内にストレスは蓄積しており、ストレスの影響から逃れるのは難しいという教訓を宇宙飛行士の古川聡氏は語ってくれました。
 
宇宙に挑むことのできる高度な体力や知性を備え、厳しい訓練を乗り越えて強靭なストレス耐性を身につけた宇宙飛行士。
それでも、決してストレスとは無縁でいられない。
古川は宇宙での体験から、ストレスに立ち向かうためにはまず、自分がどのようなストレス状況にあるのか、そしてその影響がどれくらい自分に及んでいるのか、できるだけ客観的に把握することが大切だということを教えてくれました。
 
まずは、実際の宇宙ステーションの様子を観察してみましょう。
そう考え入手した宇宙飛行士たちの記録映像は、なかなか興味深いものでした。
 
宇宙ステーションに漂っていたのはサッカーボールでした。
 
フワフワと宇宙飛行士が浮遊する宇宙ステーションの内部を、無重力空間を切り裂くようにして、サッカーボールがスーッと横切っていきます。
笑顔でボールを追う飛行士たち。
別の場面では、ギターを弾いたり、踊ったり。
ただ遊んでいるのではありません。
こうした活動の中にこそ、ストレス対策の極意が隠されているのです。
 
古川氏から、長年、宇宙飛行士の健康をサポートする「宇宙航空医師」として活躍してきた総括医長の緒方克彦氏を紹介してもらいました。
 
緒方氏はストレス対策の専門家として「コーピング」という手法を研究しています。
コーピングという言葉は英語のcope(=対処する)に由来します。
数多くの研究で実績が証明されたストレス対処法です。
代表的な手法を紹介しましょう。
 
まず、ストレスがかかったときにどんな気晴らしをすれば気分がよくなるのか、あらかじめリストアップしておく。
例えば、「音楽を聴く」「本を読む」「コーヒーを飲む」「買い物をする」といったことです。
 
「この程度でいいの?」
 
と思われるかもしれません。
しかし、こんなささいなことで構わないのです。
大切なのは、リストひとつひとつの中身よりも、なるべく数多くリストアップすることです。
 
リストが出来上がったら、実際の生活の中でいろいろなストレスがかかる度に、そのストレスに見合った気晴らしをリストからピックアップして実行する。
 
例えば、上司からきつく叱られるといった大きなストレスがかかったときは、「とっておきの気晴らし」を選ぶ。
部屋の壁に子どもが落書きしたときや、歩いていて車に泥をはねられたときなど、舌打ちしたくなる程度のストレスでも、「ちょっとした気晴らし」を選んでしっかりと対処する。
 
重要なのは、ストレスの内容やレベルを冷静に判断し、それに見合った気晴らしを行うことなのです。
 
その結果、実際にストレスが減ったかどうかを自分で判断する。
まだストレスを感じていたら、さらに同じ気晴らしを続けたり、別の気晴らしに切り替えたりしてみる。
 
このように、自らのストレスの「観察」と「対処」を、意識的かつ徹底的に繰り返す、これがコーピングの代表的な手法なのです。
 
宇宙飛行士と共に、宇宙開発事業の最前線でストレスを研究してきた緒方氏は、次のように説明します。
 
「コーピングでは、その手段がある程度用意されていることが大切です。そして、実際にストレスに襲われたときに、その手段の中からふさわしい選択をする、あるいは対策を複数組み合わせることで、ストレス解消につなげていくのです」
 
達成感をもたらすコーピング
 
ちなみに宇宙飛行士は、宇宙ステーションに私物を持ち込むことができるといいます。
ソユーズ宇宙船で飛行する場合は、1.5キロ程度まで許される。
スペースシャトルで飛行した時代は5キロ程度まで持ち込めたといいます。
 
想像してみてほしい。
もしも宇宙や無人島など、現在の生活と隔絶した場所へ行くことになったとしたら、1.5キロという限られた容量で、何を持っていくだろうか。
 
宇宙ステーションの映像を見ると、ギターを持ち込んで歌ったり、サッカーを楽しんだり、宇宙飛行士たちは思い思いに気晴らしを行っていました。
5か月半もの長期にわたって宇宙に滞在した古川市の場合、インターネットによる家族との通信が支えになった。
そして、何よりも、展望台から眺める青く美しい地球が心を癒したといいます。
 
さらに、無重力ならではのひとり野球にも挑戦していました。
ボールを投げ、ふわふわと進むボールを追い抜いて、そのボールを自らバットで打つ。
今度は打ったボールを追いかけて、ナイスキャッチ!
 
無重力の宇宙では、地上と同じ感覚で投げると、ボールは上向きに飛んでしまうそうです。
そこを補正して、まっすぐ前に押し出すようにボールを手から放さなければならない。
古川氏は、毎週休みの日に練習を重ねて、ようやくひとり野球ができるようになりました。
この達成感こそ、何よりのコーピングになったといいます。
 
「究極のストレス職場」と呼ばれる宇宙。
 
そこで生活し、難しいミッションに取り組む宇宙飛行士たちのストレス対策には、われわれの実生活に生かせる大切なヒントがありました。
歌ったり、スポーツを楽しんだり、とっておきの美しい景色を眺めたり……。
 
あらかじめ気晴らしになることを準備しておき、意識的に実行していくことによって大きな効果果を上げていたのです。
「キラーストレス 心と体をどう守るか より」
 
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新しい生活パターンへの対応、とくに人間関係の変化は想像以上に心身への影響が大きい。
気分が落ち込んだり一時的にうつ状態になってしまうこともあります。
とはいえ、そのうちに治ってしまうことが多いので、うつ状態でも必ずしも病気とは言えません。
しかし、落ち込みの程度が重い時や、落ち込みが長引いてしまうと、人の意欲は奪われて行動にも影響を及ぼします。
 
私たちの脳の中で司令塔のような役割をしているセロトニン神経という神経細胞が弱ってきており、軽い不調からうつ病、パニック症候群、さまざまな依存症などを引き起こす原因になっています。
この現象は大人から子どもまで老若男女に広がっています。
セロトニン神経は、日を浴びることや意識した呼吸、簡単な運動をすることなど日常生活に少し工夫を加えることによって鍛えることができます。
 
脳には無数の神経細胞があり、その神経細胞の末端からセロトニンアセチルコリンドーパミンなどの神経伝達物質を放出しています。
イライラしやすいときは、脳の神経伝達物質であるセロトニンアセチルコリンドーパミンなどが不足していることが考えられます。
そのため、これらの材料となるアミノ酸と、アミノ酸を取り込むために必要な糖分やビタミンB12の不足を疑ってみましょう。
また、脳の唯一のエネルギー源であるブドウ糖が足りなかったり、神経伝達物質を放出するときに働くカルシウムが不足したりしているのも原因のひとつと考えられます。
 
ビタミンB12は、悪性貧血のみならず神経や免疫系にも効果があることが明らかになり、高齢者のうつや認知症の予防等に利用されています。
高齢者が理由のはっきりしない神経症状を呈したら、ビタミンB12の欠乏を考えるべきだという学者もいます。
 
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