ボケると困る本当の理由

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ボケると困る本当の理由
    「ボケない技術(テク)」木沢記念病院中部療護センター脳神経外科部長 奥村 歩

私はこの10年、「転ばぬ先の杖の『脳ドック』」というスローガンを掲げて、脳神経外科の外来診療を続けてきました。そのスローガンが患者さんの間や地域で徐々に浸透してきたのか、最近では、「今のところはこれといった症状はないのだが、近い将来、脳卒中などになる危険はないだろうか?」といったことを心配する方が「脳ドック」を受診されるようになってきました。

実際、脳ドックを行なう脳神経外科が最も注目していることは、受診者の脳血管に、将来脳卒中になる危険を持つ脳動脈瘤が存在しているかどうか、ということなのです。なぜなら、もし脳動脈瘤が見つかった場合は、さまざまな手を打つことによって、その人が脳卒中を起こすのを未然に防ぐことが可能になるからです。

ところが、われわれ脳神経外科医の思いに反して、最近では、脳ドックを受ける人の多くが、「先生、私は、脳卒中でぽっくり逝くのはかまわないんです。でも、ボケるのだけは嫌なんです。ボケて家族に迷惑をかけたくないんです」とおっしゃっています。つまり、「脳ドック」の受診理由を、自分にボケの兆候があるかどうかを調べておきたいから、とする人が大変増えてきているのです。現代人はそれほどまでに「ボケる」ことを恐れるようになっています。

その理由の一つは、少子高齢化の影響だと思います。日本の全人口に対する65歳以上の高齢者の割合は、1950年(昭和25年)ではわずか4.9%でした。その後、毎年上昇を続け、1985年(昭和60年)には10.3%、さらに20年後の2005年(平成17年)には20%に達しました。

65歳以上の高齢者数が全人口の7%を超した社会を高齢化社会と呼びます。そして14%を超えると、高齢化社会ではなく、高齢社会であり超高齢社会なのです。欧米をはじめ他の地域でも、65歳以上の高齢者が20%を突破している経験はないので、今の日本は人類史上初の高齢社会を迎えたことになるのです。

そして、少子化がこの流れに拍車をかけて、団塊の世代が高齢者の仲間入りをするときには、高齢者が25%を超えることが予測されています。このような超少子高齢社会では、高齢者の面倒は若い世代が担う、という今までの構図が破綻してくることは明白です。年金制度や医療保険介護保険なども、若い世代が負担して高齢者を支える、という基本のシステムが成り立たなくなってきます。

その実際を、医療保険でみてみましょう。医療保険は、1974年までは老人医療費は無料だったのですが、それ以降は10%から20%と次第に上がり、2006年の改正以降は、70歳以上の高齢者でも場合によっては、若者と同等の30%にまで引き上げられることが決定されています。この傾向はこれからますます進みます。ですから、これは高齢者にとっては、介護が必要になっても誰も面倒はみてくれない、という時代が到来したことであり、自分のことは最期まで自分でやる、という姿勢が求められているのです。まさにボケてなんていられないのです。

おわりに
認知症が大きな社会問題となってきた今日では、全国のたくさんの病院で「もの忘れ外来」が開設されるようになってきました。私が「もの忘れ外来」を担当していて一番辛くなるのは、訪ねてきた患者さんの中に、既に認知症がかなり進行していて、もうあと戻りできない方がたくさんいる、という現実に日々向かい合わなければならないことです。

私たちの認知機能には、病気や事故によって一度壊されてしまうとなかなか回復しにくい、という性質があります。もっとも強調したかったことは、良い生活習慣を身につけることによって認知機能を高め、認知症を予防する、ということでした。くどいようですが「認知症は予防に勝る治療法なし」です。つまり、皆さんの認知機能を守るのは「もの忘れ外来」ではなく、皆さん自身なのです。


認知症の予防・対策
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