第6章 感情は豊かに、でも感情的にはならない

第6章 感情は豊かに、でも感情的にはならない

 

高齢になると、脳の前頭葉が委縮してくるため、感情のコントロールがききにくくなります。

役所の職員や店のスタッフの対応に腹を立てて、大声で怒鳴りつけている高齢者がよくいます。

 

その姿を見た人からは「暴走老人」などと呼ばれ、「ああはなりたくない」とつぶやかれたりします。

 

でも、その手の高齢者の多くは、ふだんから四六時中、怒っているわけではありません。

 

「かくあるべし思考」が強いために、そこから外れた人を見るとムカッときてしまう。

つまり規範意識が強く、ふだんはむしろまじめそのものの人が多いのです。

 

言い換えれば、彼らは感情が豊かとはいえません。

「暴走老人」のように怒りっぽくなったり、あるいは涙もろくなったりと、一般的には高齢になるほど喜怒哀楽が激しくなるといわれていますが、実際にたくさんの高齢者を診ていると、むしろ逆だと感じます。

 

喜怒哀楽などの感情をつかさどる大脳辺縁系の老化が進むため、一般論的には高齢になるほど感情のテンションが下がります。

感情のテンションが下がるかわりに、前頭葉も委縮してその機能が低下するので、いったん火がつくとブレーキが利かなくなるというのが、高齢者の典型的な感情のパターンだと思います。

 

「感情的にならない」というのは、怒りなどの感情を押し殺すということではありません

感情をもつことと、感情的になることは違います。

感情をもつのはいいことですが、たとえば怒りの感情にまかせて手を出したり、暴言を吐いたりするのは問題です。

 

あるいは、何か心配事があって不安になるのは悪いことではありませんが、不安感情によって思考が歪められたり、事実を隠蔽するような行為に走ったりするのはよくないということです。

「感情的にならない」とは、怒りを言動としないこと、怒りと不安によって思考が歪められないことです。

 

そこで、年配者の知恵を発揮して、ムカッときたら一呼吸おくとか、「こんなところで怒鳴ったらみっともない」と、自分を客観視するといってことが必要です。

 

感情に振りまわされて思考が歪むパターンの一つは、あと先のことが考えられなくなるというものです。

 

たとえば、感染症に対する不安に振りまわされて、先々歩けなくなるかもしれないリスクを考えられず、家にこもりつづけてしまうというのもその一例です。

不安感から隠し事をしてよけい苦しくなるとか、相手が嫌いだという感情に振りまわされて、その相手の言うことを全否定するといったパターンもあります。

 

感情そのものを押し殺す必要はありません。

むしろ楽しいときは楽しみ、おかしいときは笑い、政治などで腹の立つことがあれば怒り、不安なときはそれを人と共有する。

そんなふうに感情を豊かに表すことは、悪いことではないのです。

高齢になっても魅力的な人の多くは、喜怒哀楽がはっきりしています。

 

高齢の人は、これまでそれを我慢して、さまざまな感情を押し殺してきた人が多いのではないかと思います。

でも、高齢者の笑いはとてもチャーミングだし、思いきり笑うことは免疫機能を高める効果もあります

 

感情が豊かな高齢者を、人は決して嫌わないと思います。

 

嫌われる人がいるとすれば、感情をあらわにするだけにとどまらず、そこで手が出たり暴言を吐いたり、人が傷つくような悪口を言ったりするからです。

感情は出してもいい。

でも、感情にまかせて人に嫌われるようなことをしてはいけない。

その境目を見極められるのが、品格のある高齢者だと思います。

 

好かれる高齢者は、やはりどこかかわいげがあるものです。

感情が豊かで、ときにネガティブな感情を出しても、「あの人は憎めない」と言われる。

それはやはりすてきなことだと思います。

「老いの品格 品よく、賢く、おもしろく より」

 

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脳の中では、運動会のリレーのように、神経がバトンをつないで、指令を伝達していきます。

しかし、たとえばC地点の神経細胞が倒れてしまい、指令がそこで止まってしまう、という事態が起こります。

このとき、すぐにC地点の神経細胞を救出できれば復活したのですが、時間が経ち、死んでしまって、その指令も届かなくなる。

これが運動麻痺や言語障害の起こる理由です。

 

ところが、脳のすごいところは、C地点から今度はほかのルートでバトンを渡そうとするのです。

新たなルートで、新たなリレーのチームを作り、「言葉を話す」という指令を伝えようとします。

この新チームは、以前のチームのようにバトンの受け渡しがうまくなく、スムーズに指令が届きません。

しかし、何度も繰り返し練習するうちに、だんだんうまく指令が伝わるようになっていきます。

このようにして、死んでしまった神経細胞は復元しないけれど、ほかのルートで代用できれば、言葉がある程度話せるようになり、失語症もよくなっていくというわけです。

 

ニューロン同士が情報伝達を行うこと、つまり神経機能的連絡を行うためには、新経路の交差点ともいうべきものが必要であり、この交差点をシナプスと言います。

このシナプスは、歳をとっても増加し、より成熟した結合が進行するとされています。

高度の創造過程にも高密度のシナプス形成が必要と思われ、そのためには、それに必要な素材として神経系構成成分、つまり栄養成分が必要なことは当然で、また、その構築作業のための酵素、そしてそれを補佐する補酵素的ビタミンも必要となります。

その中でも重要なものがビタミンB12なのです。

脳科学の発達によって、さまざまなことがわかり、新たな試みがされています。

 

ビタミンB12について?

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