第5章 「だてに歳はとっていない」と誇れる老人になろう 「世の中に正解はない」と言えるのが高齢者の強み
第5章 「だてに歳はとっていない」と誇れる老人になろう
「世の中に正解はない」と言えるのが高齢者の強み
歳をとると、ものがわかったような気になってきます。
でも、尊敬する高齢者専門の医師は、「長年診れば診るほど、高齢者のことがわからなくなる」と言います。
症状からこの病気だと推測してもぜんぜん違っていたり、よかれと思って出した治療方針がまったくあわなかったりということが、高齢者医療では往々にして起こります。
これは、心理的な要因や、本人の資質に左右される部分が大きいのです。
たとえば、ヘビースモーカーで体に悪いことをしまくっているのに、100歳を過ぎても元気そのものという人もいます。
「高齢者はこうだ」という一つの答えを出すことは、本来、誰にもできません。
この本でかなりわかったようなことを言っていますが、あくまでもこれまで高齢者を診てきた印象論で、そうだと思うことを述べているにすぎません。
今後さらに10年、高齢者を診つづけていたら、考え方が変わる可能性もあります。
いま、自分が出している答えが正しいとは思っていません。
とはいえ、高齢者をこれだけ診ている医師はほかにはあまりいないだろうと思いますし、臨床にずっと携わってきたので、研究室で動物実験ばかりしてきた人たちの言うことよりは、あてになるはずだという自負もあります。
心の問題を扱う精神科の医師であるという面でも、多くの人にとって、ある程度有用なことが伝えられるのではないかと思っています。
それでも、違う意見を言う人に対して、「自分のほうがたくさん患者を診ているのだから、自分の言うことのほうが正しい」と言い張る気はまったくありません。
でも、「あなたの言うことはまちがっている」と主張してくる人はたくさんいます。
そういう人は、人には個人差があるということを認識していないばかりか、自分が学んできた理論は永劫変わることがないと思っている人に見えます。
人生経験を積んだすてきな高齢者は、自分の意見にあまり固執しません。
長く生きていると、「こう思っていたけど、じつは違っていた」ということを何度も経験しているので、世の中にただ一つの正解といえるものはそうそうなく、いろいろなパターンがありうることを体感的に知っているからです。
自説にこだわる人は、自分のモノサシだけでしかものを見ていないので、「じつは違っていた」ということがあっても、違っていたことにさえ気づかないのです。
世の中に正解はありません。
ほとんどのことに対して、そう思っています。
どれか一つが答えだと思うと、そこで思考が停止してしまいます。
歳をとっても人間に残る重要な能力の一つは、考える能力です。
何か知識を得て、それが答えだと納得し、それ以上考えなくなってしまったら、そこでもう終わりです。
いくつもの答えの可能性があって、そのどれかなのだろうと思えれば、一つの説が否定されても、別の説が考えられます。
だから、いろいろな情報をもつほうがいいのだと信じます。
人より長く生きるということは、そのぶん、人よりいろいろなことを知る機会が増えて、物事を考えたり、試したりする機会が増えるということです。
正解に見えることに対しても、「いや、そうとはかぎらないぞ」という見方ができるのは、長く生きてきた人の強みではないでしょうか。
「老いの品格 品よく、賢く、おもしろく より」
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脳の中では、運動会のリレーのように、神経がバトンをつないで、指令を伝達していきます。
しかし、たとえばC地点の神経細胞が倒れてしまい、指令がそこで止まってしまう、という事態が起こります。
このとき、すぐにC地点の神経細胞を救出できれば復活したのですが、時間が経ち、死んでしまって、その指令も届かなくなる。
これが運動麻痺や言語障害の起こる理由です。
ところが、脳のすごいところは、C地点から今度はほかのルートでバトンを渡そうとするのです。
新たなルートで、新たなリレーのチームを作り、「言葉を話す」という指令を伝えようとします。
この新チームは、以前のチームのようにバトンの受け渡しがうまくなく、スムーズに指令が届きません。
しかし、何度も繰り返し練習するうちに、だんだんうまく指令が伝わるようになっていきます。
このようにして、死んでしまった神経細胞は復元しないけれど、ほかのルートで代用できれば、言葉がある程度話せるようになり、失語症もよくなっていくというわけです。
ニューロン同士が情報伝達を行うこと、つまり神経機能的連絡を行うためには、新経路の交差点ともいうべきものが必要であり、この交差点をシナプスと言います。
このシナプスは、歳をとっても増加し、より成熟した結合が進行するとされています。
高度の創造過程にも高密度のシナプス形成が必要と思われ、そのためには、それに必要な素材として神経系構成成分、つまり栄養成分が必要なことは当然で、また、その構築作業のための酵素、そしてそれを補佐する補酵素的ビタミンも必要となります。
その中でも重要なものがビタミンB12なのです。
脳科学の発達によって、さまざまなことがわかり、新たな試みがされています。
ビタミンB12について?