第3章 認知症になりやすい人、なりにくい人
長い間、老年精神医学の師と仰いでいる故・竹中星郎先生は次のように話しています。
「認知症は欠落症状に対する人格の反応だ」
これはつまり、認知症は当人が本来的に持っている性格や気質が表面に出やすいということです。
たとえば、ものを置き忘れたという欠落症状が起きたときに、自分に厳しい性格の人は「なんでこんな失敗をしてしまうのだ」と自分を責めます。
反対に、他人に厳しい人は「誰かが盗ったのではないか」と他人を疑います。
温和な性格の人は、大事なものをなくしても気にしない傾向が顕在化します。
認知症は、症状にその個人の個性が出やすいのであり、だからこそ「認知症にかかったら終わり」などという病気ではなく、「自分の個性がより強調される症状が起こる」ということを忘れないでほしいと思います。
もちろん、長所ばかりではなく、ケチな人は極端なケチっぷりが周囲を当惑させるかもしれません。ときには家族を悲しませ、失望するような場面が出てくる可能性もありますが、患者さんに接するときは「誰にでも起こる病気」であることを再認識してほしいのです。
アルツハイマー型認知症は誰でもなる病気ですが、当然、発症する確率は個人差があり、遺伝的要因が大きいと見られています。
親が発症した場合、その子どもも同じ認知症になりやすいともいわれています。
もちろん後天的な要素も大きく、日ごろから頭を使わない人ほど認知症になりやすい傾向があります。
認知症の患者さんをテストしてみると、頭を使っている人のほうが、認知機能テストの点数が高いことも知られています。
頭を使えば使うほど、認知症のリスクは低くなるということです。
頭の使い方にはいろいろな方法がありますが、頭を回転させる上で最も有効なのは他人との会話です。
会話は相手の話を理解し、瞬時に適切な反応が必要な高度な知的作業で、頭は強制的に回転させられます。
ヨボヨボ脳に近い状態でも、話のキャッチボールを続ければハツラツ脳に甦ってくるのです。
声を出すこと自体にも認知症予防の効果があるように感じます。
担当するアルツハイマー型認知症の患者さんの中に、詩吟をしている人がいるのですが、長く続けているせいなのか、症状の進行が非常に遅いのです。
カラオケ、合唱など声を出す趣味は認知症防止に効果があるのかもしれません。
ヨボヨボ脳になることを恐れる人は多いようで、「脳トレ」もブームになっています。
簡単な四則計算や数字のパズル「数独」など種類も豊富で、書店の中には“脳トレコーナー”を設置している店もあります。
“大学教授お墨付き”を売り文句にしている「脳トレ本」も話題のようですが、その効果について否定的な見方が増えています。
世界的な科学雑誌『ネイチャー』などで脳トレの効果に関する調査結果が掲載されているのですが、どれも認知症の予報には効果がないということが明らかになっています。
その研究のひとつがアメリカ・アラバマ州にあるアラバマ大学が実施した実験で、2832人の高齢者を対象に言語の記憶や問題解決能力、問題処理能力を上げるトレーニングを実施しています。
その結果、課題のテストの点数は上がりましたが、その他の認知機能に対する波及効果は得られず、点数は上がっていない、と報告されています。
簡単にいえば、勉強した課題に対するトレーニングにはなっているものの、脳全体のトレーニングには結びついていないのです。
この手のテストは、継続すれば慣れてきて獲得点数は上がってきます。
しかし、それが脳の活性化に結びついていないのですから、テストを続ける意味はあまりありません。
ただの「テトス上手」になるだけで、ヨボヨボ脳を元気にさせる「脳トレ」本来の目標がまったく達成されていないのです。
ヨボヨボ脳対策に最も効果的なのは、「楽しいことをやる」だと考えています。
楽しいことをすればするほど、脳にはプラスの刺激がもたらされます。
認知症予防のために、脳トレ本を購入するなどの特別なことをする必要はありません。
仕事をしている人は、仕事の中に楽しみややりがいを見つけられれば、それが最高の脳トレになります。
リタイアしている人なら、読書、囲碁、将棋、マージャン、あるいは競馬、競輪などのギャンブル(もちろん、生活破綻を招くようなことのない範囲で)、なんでもいいですから、自分が本当に楽しめる趣味を見つけ、それを続ければいいのです。
たとえば、掃除、洗濯、炊事などの家事を「快適なレベル」で継続することも、素晴らしい脳トレになります。
立派な「ヨボヨボ脳の進行防止策」になるのです。
生活の営みそのものの中にも、脳トレ教材はたくさんあります。
お金もかかりません。
「いつまでもハツラツ脳の人 より」
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認知症の多くは、脳血管障害の積み重ねで起こり、その原因のほとんどが脳梗塞です。
ですから、脳梗塞の前兆である隠れ脳梗塞を早期発見することで多くの認知症を防ぐことができるのです。
脳梗塞は、高血圧や糖尿病などの病気が原因となったり、生活習慣などによって血液がドロドロになって血液循環が悪くなったりして、血管が厚く狭くなり、脳の血管が徐々に詰まって進行していきます。
一般的に、脳梗塞の初期には、大きさ数ミリ程度の微小な梗塞が数個出現し、段階をへるごとにこの梗塞が脳のあちこちに見られます。
このような症状のないごく小さな梗塞が隠れ脳梗塞(無症候性脳梗塞)です。
「隠れ脳梗塞(無症候性脳梗塞)は、早い人だと30代からあらわれ、40代を過ぎると急に増加するといわれています。
ビタミンB12や葉酸の吸収が悪くなると、ホモシステインという老化物質が増え、動脈硬化を生じることがわかっています。
ホモシステインはLDLと一緒になり血管壁にコレステロールを沈着させます。
また活性酸素と一緒になり、脂肪やLDLの過酸化、血管内皮細胞や血管の平滑筋の異常を引き起こします。
脳梗塞をはじめとする脳血管障害を生活習慣病の一つととらえ、ふだんから健康に保つ生活を心がけましょう。
老人の認知症の3割~5割を占めるアルツハイマー病の場合は、脳細胞が萎縮する病気です。
この萎縮を食い止めるためには、脳細胞を生成するためのタンパク合成、核酸(DNA)合成が順調に行われる必要があるのです。
ビタミンB12は、脳細胞のタンパクと核酸(DNA)の生合成を司っています。
新しい核酸、タンパク質が生まれ、それによって細胞も新しく生まれ変わり、「こわれた組織、細胞」と「新生の組織、細胞」が入れ替わります。
その結果若さにもつながると考えられます。
アルツハイマー型認知症の方々の脳脊髄中にはビタミンB12が少ないことが確認されています。
ビタミンB12について?