「なりたい老人」の姿
人は子供から大人になり、そして老人になります。
子供から大人へと移行する思春期には、ほとんどの人が自我の成長にともなって、「自分は何をしたいのか」、さらには「どんな大人になりたいか」について考えるものでしょう。
でも、大人から老人へと移行する「思秋期」(ここでの造語です)とも呼べる時期に、「どんな老人になりたいか」について考える人は、あまりいないのではないでしょうか。
「いつまでも若くありたい」「老人になりたくない」。
今の日本では、多くの人がそう思っています。
これまで35年近くにわたり老年精神医学に携わってきて、いい歳のとり方をする人と、そうでない人がいることを実感しています。
歳をとっても、どこか「いじましい」人、すなわち、せこせこして見苦しい人、けちけちしていて忘れっぽい人がいる一方で、飄々としている人や、老いに対して覚悟を決めているような人もいます。
60代に入り、自分がどんなふうに歳をとっていきたいかを考えるようになりました。
そして「こんな老人になりたい」という三つのモデルが、自分のなかで明確になってきました。
「品のある老人」「賢い老人」、そして「おもしろい老人」です。
これは、どちらかというと「こうありたい自分」の姿であって、「自分はこんな人間である」という表明ではないのです。
「こうなりたい」と思う高齢者の姿とはどんなものかをお伝えすることが、“幸せに歳をとるためのヒント”になるのではと思っています。
お金や地位があるだけでは幸せな老人になれない
重要なことの一つは、高齢期には若いころのような上昇志向の価値観は通用しなくなるということです。
肩書を得るために必死でがんばってきても、高齢期になって悲しい思いをするケースは少なくありません。
入院患者には社会的地位の高い人が比較的多くいました。
元大臣や、大企業の元社長などもいましたが、その人たちの晩年が恵まれていたかというと、必ずしもそうではありませんでした。
上司に媚を売って出世したような人は、高い地位を得ても部下からの人望はありません。
自分をかわいがってくれた上司たちは、自分より年配なので先に世を去っていきます。
一方で、下の世代からは好かれていないので、高齢になって入院しても、誰も見舞いに訪れないというケースがよくあります。
勤務していたのはバブル期だったので、なかには土地の売買でとてつもない財産を築いたような人もいました、
でも、その財産が、子供たちの壮絶な争いの種となるケースを、少なからず見てきました。
老後の幸せは、地位やお金だけで得られるものではないのです。
高齢の患者さんと向き合う日々のなかで、そのことをひしひしと感じました。
何を得たいかより、どう生きたいか
70代、80代に、どうすればおもしろい人やすてきな人になれるかを、早めに考えておく、あるいはその年代になったら考えてみることが、本当に幸せになる鍵だと考えています。
定年後に、少しでも収入の高い仕事に就こうと躍起になる人もいます。
生活をしていくためにそうせざるをえない人も多いでしょうが、ただ、その先もずっとお金のことだけを第一に考える生き方が、生活の真の豊かさ、本当の幸せに結びつくかはちょっと疑問です。
年収200~300万円の仕事と年収数千万円の仕事があったとして、そこそこの金額の年金を受給できて、ローンを払い終わった持ち家がある人であれば、そのどちらに就いたとしても、若いころと違って生活の実質的な差はそれほどつかないはずです。
国民年金のみの場合でも、プラス300万円の収入があれば、それなりに充実した生活ができると思います。
もちろん、高級なレストランでの食事を日常的に楽しめるといった違いはあるかもしれませんが、住まいにしても、歳をとるほど豪邸はいらなくなります。
子どもが独立したあと、広い家で夫婦二人暮らしや独居になり、寂しさを感じたり、スペースをもてあましたりしているという高齢者の話もよく聞きます。
ある程度の年齢になれば、一軒家よりもコンパクトなマンションのほうが、むしろ住みやすいともいえます。
高齢になるにしたがって、一般的には、それほど高収入を求める必要はなくなっていきます。
それは言い換えれば、お金や地位を得ることだけにこだわらず、本当にしたい仕事や生き方を選ぶ自由が手に入るということです。
2018年に、当時78歳だったボランティア活動課の男性が、行方不明になっていた子供を発見し、「スーパーボランティア」として注目を浴びました。
彼は、世間から賞賛が得たくてボランティア活動に励んでいたわけではなく、ただ人の役に立ちたいと思い、それを喜びとしてずっと活動を続けてきて、結果的に称賛されることになったようです。
歳をとることをやみくもにネガティブにとらえず、これから何をしようか、どんなふうに生きていこうかと考えてみてください。
何を得たいかではなく、どう生きたいかを考え、そのとおりに生きることで、結果として望ましいものを得るということもあります。
「老いの品格 品よく、賢く、おもしろく より」
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人の体の老化は20代ごろから始まります。
老化は生きている以上避けられないものですが、何をどう食べるかで進行程度が変わってきます。
30代では個人差はさほどありませんが、40歳を過ぎて中年期に入るころからだんだん差が生じ、65歳を過ぎて高年期に入ると、健康状態にはっきりとした差が出ます。
健康寿命をのばす食生活に加えて、年代別の食べ物・食べ方に気をつけると、病気予防がいっそうアップします。
動脈硬化は年齢とともに発症しやすくなり、50代になるとほとんどの人(女性は60代から)に動脈硬化が見られるようになります。
脳梗塞は、高血圧や糖尿病などの病気が原因となったり、生活習慣などによって血液がドロドロになって血液循環が悪くなったりして、血管が厚く狭くなり、脳の血管が徐々に詰まって進行していきます。
一般的に、脳梗塞の初期には、大きさ数ミリ程度の微小な梗塞が数個出現し、段階をへるごとにこの梗塞が脳のあちこちに見られます。
このような症状のないごく小さな梗塞が隠れ脳梗塞(無症候性脳梗塞)です。
「隠れ脳梗塞(無症候性脳梗塞)は、早い人だと30代からあらわれ、40代を過ぎると急に増加するといわれています。
脳梗塞をはじめとする脳血管障害を生活習慣病の一つととらえ、ふだんから健康に保つ生活を心がけましょう。
血管は「酸化」していくことで傷ついていきます。
たとえば、悪玉コレステロール(LDLコレステロール)が動脈硬化の原因になるということを聞いたことがあるかもしれません。
LDLコレステロール(以下LDL)が血管にへばりついて、プラークと呼ばれるこぶを血管の壁に形成していくのです。
ビタミンB12やB6、葉酸の吸収が悪くなると、活性酸素やホモシステインという老化物質が増え、動脈硬化を生じることもわかっています。
ビタミンB12について?