第2章 孤独を避ければ認知症は防げる
孤立しないことが大事
ヒトという動物は、もともと「群れ」で暮らす“群がり動物”です。
考えてみると、ヒトは動物としてはか弱いです。
逃げ足だって速くないですし、相手を突き刺す鋭い角も、牙も持ち合わせていません。
武器なしで戦ったら、ライオンや熊はもちろん、イノシシにだって負けるでしょう。
そんなか弱い動物が、地上にこれだけのさばっていられるのは、「群れ」で社会を形成し、何事も協力し合っているおかげです。
「群れ」で交流するため、言葉が生まれました。
「脳が言葉をつくり、言葉が脳を変える」といわれますが、言葉でコミュニケーションを交わすうちに、脳が刺激され、活性化され、これだけ多彩な文明・文化をつくり出してきたともいえます。
だからこそ、ヒトが「群れ」から切り離されて孤独になり、言葉を交わす相手を失うと、脳に対する刺激が低下してしまいます。
それは間違いなく認知機能の低下につながり、認知症の可能性が高まります。
使わないと衰えるのは筋肉ばかりではなく、脳も同じなのです。
「孤独」とは別に「孤立」という言葉がありますが、これは似ているようで異なる意味合いがあります。
孤独は、頼れる人や心が通じる相手がおらず、寂しいと思う「気持ち」。
一方の孤立は、他人とつながる手段のない「状況」を表します。
どちらも、できるだけ避けたほうがよいでしょうけれども、どちらかというと孤立の方が深刻です。
孤立すると、食事など、生活もおろそかになりがちで、天寿を全うするまで健康な心身を維持することは難しくなるでしょう。
栄養状態や生活環境が悪化しているのに、それを改善しようという意欲を失い、周囲に助けを求めない「セルフ・ネグレクト」(自己放任)に陥るケースも少なくありません。
時おり話題になるゴミ屋敷や孤立死の背景には、セルフ・ネグレクトがある場合もあります。
孤立すると早々に認知症になるか、健康を害して短命になり孤立死するかの確率が高まりかねません。
さらに孤立も孤独も、認知症の進行を早めてしまいます。
そうしたリスクをいかにして避けられるかが、ここでのテーマです(以降、わかりやすくするため、孤独と孤立を分けず、孤独という言葉を使います)。
孤独に陥るプロセスには、いろいろなパターンが考えられます。
そもそも「孤独」という言葉は、中国の戦国時代を生きた儒者・孟子の思想を伝えている書物『孟子』(梁恵王篇下)出てくる「鰥寡孤独」に由来するとされています。
これは、古代の律令制で国の救済の対象となった家族構成のことです。
平安初期の律令の解説書『令義解』では、鰥=61歳以上のやもめ、寡=50歳以上の未亡人、孤=父親のいない16歳以下の子ども、独=子どもがいない61歳以上の者を指すとされています。
現代でも、長年連れ添った配偶者との死別から孤独に陥ることがあります。
配偶者と死別して1人暮らしになると、親しく会話する存在がいなくなり、孤独の色合いが強くなりがちです。
子どもたちが独立して夫婦だけになると、「家庭内孤独」が起こることがあります。
1つ屋根の下で暮らしているものの、会話が少なくなり、互いに孤独を抱えるようになるのです。
高齢夫婦2人暮らしだと、より会話は少なくなる傾向があります。
「阿吽の呼吸」でなんでもわかってしまいますから、会話をしなくても生活が成り立ってしまうのです。
「お~い」や「あれ」で話が終わってしまうのは、互いの脳の衰え、認知機能の低下を招く恐れがあります。
子どもたちと同居していても、若い世代とは会話が成立しないことも少なくありません。
ジェネレーション・ギャップ(世代間格差)があり、子どもたちがあたり前のように使っている言葉が、親世代にはチンプンカンプンなことも多いからです。
若い世代がよく口にする「ダウンロード」「サブスク」「アプリ」といった単語だって、私のようにガラケー(旧世代携帯電話)しか持っていない高齢者には、通じないことも多いでしょう。
生涯を通じて単身者でいることも、孤独に陥る要因になり得ます。
かつて昭和の時代には、適齢期になれぱ結婚するのがあたり前のように思われていました。
平成・令和と時代が変わるとそうした認識は崩れ、現在ではアラフィフ(50歳前後)で一度も結婚したことがない人は、男性で4人に1人、女性で6人に1人に達するとされています。
2000年代には「おひとりさま」という言葉も広まりました。
この言葉には、1人で自由気ままに暮らすことを楽しむポジティブな意味合いが込められています。
そうはいっても、1人暮らしで孤独に陥る人もいるでしょう。
家族といても「おひとりさま」でも、自分らしく楽しく充実した老後を送るためには、認知症にならないことが大前提です。
そのためには、孤独に陥らず、周囲との関わりやコミュニケーションで、脳を刺激する工夫が求められるのです。
※ポイント 積極的な言葉のコミュニケーションで脳に刺激を与えるようにしましょう
「一生ボケない習慣 より」
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人の体の老化は20代ごろから始まります。
老化は生きている以上避けられないものですが、何をどう食べるかで進行程度が変わってきます。
30代では個人差はさほどありませんが、40歳を過ぎて中年期に入るころからだんだん差が生じ、65歳を過ぎて高年期に入ると、健康状態にはっきりとした差が出ます。
健康寿命をのばす食生活に加えて、年代別の食べ物・食べ方に気をつけると、病気予防がいっそうアップします。
動脈硬化は年齢とともに発症しやすくなり、50代になるとほとんどの人(女性は60代から)に動脈硬化が見られるようになります。
認知症の多くは、脳血管障害の積み重ねで起こり、その原因のほとんどが脳梗塞です。
ですから、脳梗塞の前兆である隠れ脳梗塞を早期発見することで多くの認知症を防ぐことができるのです。
脳梗塞は、高血圧や糖尿病などの病気が原因となったり、生活習慣などによって血液がドロドロになって血液循環が悪くなったりして、血管が厚く狭くなり、脳の血管が徐々に詰まって進行していきます。
一般的に、脳梗塞の初期には、大きさ数ミリ程度の微小な梗塞が数個出現し、段階をへるごとにこの梗塞が脳のあちこちに見られます。
このような症状のないごく小さな梗塞が隠れ脳梗塞(無症候性脳梗塞)です。
「隠れ脳梗塞(無症候性脳梗塞)は、早い人だと30代からあらわれ、40代を過ぎると急に増加するといわれています。
脳梗塞をはじめとする脳血管障害を生活習慣病の一つととらえ、ふだんから健康に保つ生活を心がけましょう。
ビタミンB12やB6、葉酸の吸収が悪くなると、活性酸素やホモシステインという老化物質が増え、動脈硬化を生じることもわかっています。
ビタミンB群は、体に入った栄養成分をエネルギーに変えるときに不可欠なビタミンの仲間です。
また、脳の神経伝達物質の合成すべての段階に関わっています。
神経の働きを整えたり、傷んだ神経を補修したり、タンパク質をドーパミンやセロトニンといった神経伝達物質に作り替えるなど、「脳力向上」のためにもB群は欠かすことができないのです。
ビタミンB12について?