第1章 あなたが「人嫌い」なら、脳力の低下が心配
「新しいことを面倒くさがる」「いままで通りを続ける」は、高齢者にかぎったことではありません。
30代、40代であっても、そうした2つの傾向が顕著な人は、加齢とともに「ヨボヨボ脳」になるリスクが高いといえるかもしれません。
逆に70代、80代であっても、この2つのクセを意識的に回避していれば、いつまでもハツラツ脳でいられるともいえます。
一般的な人間関係においては、たしかに、気心知れた人、何度か会ったことのある人に比べて、知らない人に会うシーンはいろいろと神経を使います。
しかし、普通の社会生活を送っていれば、誰でも知らない人に会う機会はあります。
それは人好きであろうが、人嫌いであろうが、避けることはできません。
ましてや、それが生計を立てるための仕事のシーンであれば、四の五のいってはいられません。
だとすれば、こうしたシーンを前向きにとらえたほうがストレスも軽減できるはずです。
さらにいえば、知らない人との出会いのシーンは、さまざまな新しい情報を得るチャンスでもあります。
自分が知らなかった現実、知識、考え方、生き方に触れることで、新しい情報を得ることができるのです。
もちろん、がっかりするような出会いもあるでしょうが、「会っても退屈だった。何の役にも立たなかった」というのも、ある意味で「新しい情報」です。
そんな場合は、早めに切り上げればいいのです。
新しい出会いには「ムダ」はないのだと考えたほうが賢い生き方なのではないでしょうか。
性格的に「人嫌い」の人は確かにいます。
しかし、人と接することを避けようとすることは、仕事においてプライベートにおいても、いい影響はありません。
コミュニケーションは「頭の体操」になる
人と接することを避けることは、70代、80代の人にとっては、別の意味で問題があります。
それは頭を働かせる機会を減らしてしまうからです。
人と会ってコミュニケーションすることは、自分にとって相手がどういう人であれ、脳を使います。
長い付き合いの人、付き合いは短くとも気心知れた人であれば、コミュニケーション自体も楽しいでしょうが、楽しいからといって、決して脳が「ラク」をしているわけではありません。
会話の中ではじめて聞くエピソードであれば、新しい情報として記銘するために脳は働きますし、会話の文脈に関わる記憶を呼び起こすために脳を働かせます。
「この前、生まれてはじめて歌舞伎を観に国立劇場に行ったんだけど、キミも知っているように僕がよく観に行く明治座の大衆演劇とは全然違うね」
たとえば、何年振りかにあった親友がこんな話をしたとしましょう。
すると、その話を聞いたあなたの脳の中はどうなるでしょうか。
1.親友がはじめて国立劇場で歌舞伎を観た→脳への新しい情報の記銘
2.親友は大衆演劇が好きだった→古い記憶の想起
簡単にいえば、あなたの脳はこの1、2の2つの動きをします。
会って話をしていれば、たとえばお互いの家族の話、政治の話、病気の話、思い出話など、さまざまな話題で会話を続けることになります。
そうしたコミュニケーションの時間は、「新しい情報の記銘」と「古い記憶の想起」の繰り返しです。
相手は学術論文の発表をしているわけではありませんから、理路整然と話すわけではありません。
脈絡を欠いた状態で、話があっちこっちに行くたびに、あなたの脳は、相手の話を正しく理解するために一生懸命に1、2の動きを続けます。
ただ聞いているだけならいいのですが、コミュニケーションを成立させるために、あなたは相手の話に合わせて脳を働かせて、自分の考えをまとめて「発語」しなければなりません。
それもただ発語するだけではなく、相手に理解してもらうための言葉と文章を探します。
つまり、人と会って話すことは、脳を悩ませることなのです。
「ノンビリさせて」
実際にはそんなことをいいませんが、脳は基本的には「怠け者」です。
動かさないで怠け癖がつけば、イザというときに、きちんと動くことが難しくなってしまいます。
世代は問いませんが、とくに70代、80代の人にとって、自分の脳にこの怠け癖をつけさせないことがハツラツ脳維持の条件であり、怠け癖を放っておくことはヨボヨボ脳のリスク要因なのです。
「新しい情報の記銘力」や「古い記憶の想起力」が知らぬ間に劣化していきます。
友人が口にする新ネタには無反応、思い出話には「そうだっけ?」では、淋しい友人関係になってしまいます。
人とのコミュニケーションを嫌がる「人嫌い」はとくに注意が必要です。
「いつまでもハツラツ脳の人 より」
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物忘れに関する神経伝達物質の中で記憶と学習にかかわっているのはアセチルコリンで、このアセチルコリンはコリンと酵素を原料にしてつくられています。
ビタミンB12は、アセチルコリンを活性化して神経伝達をスムーズに行う働きをもっています。
また、アルツハイマー型認知症の患者の脳脊髄中にはビタミンB12が少ないことが確認されています。
アルツハイマーの脳ではアセチルコリンが減少していることから、アセチルコリン不足がアルツハイマーのひとつの原因とも考えられています。
アセチルコリンの合成にはコリン、ビタミンB1、ビタミンB12などがかかわっています。
同時にこれらの栄養をとることが、アセチルコリンを増やすことにつながるわけです。
通常、コリンはレシチン(フォスファチジルコリン)のかたちで、食材から摂取されます。
レシチンは、とくに脳の神経細胞の細胞膜にはたくさん含まれていて、多彩な働きをしています。
血液にのって運ばれる栄養の細胞内へのとり込みや細胞内の老廃物の排出、神経伝達物質の放出や情報ネットワークの形成といった、脳の機能全体に深くかかわっています。
「脳の栄養素」と呼ばれるレシチンを多く含んでいる食品の代表は「卵黄」です。
老人の認知症の3割~5割を占めるアルツハイマー病の場合は、脳細胞が萎縮する病気です。
この萎縮を食い止めるためには、脳細胞を生成するためのタンパク合成、核酸(DNA)合成が順調に行われる必要があるのです。
ビタミンB12は、脳細胞のタンパクと核酸(DNA)の生合成を司っています。
新しい核酸、タンパク質が生まれ、それによって細胞も新しく生まれ変わり、「こわれた組織、細胞」と「新生の組織、細胞」が入れ替わります。
その結果若さにもつながると考えられます。
ビタミンB12について?