第2章 思い出す作業で脳の「代償性」を高める
第2章 思い出す作業で脳の「代償性」を高める
認知症患者さんへの毎朝のボランティア電話では、あらかじめ決めた毎月の合言葉を答えてもらったり、助け舟を出しながら日付を答えてもらったりしています。
バカバカしいと思われるかもしれませんが、思い出す作業を続けながら、治療薬を並行して用いることにより、患者さんの認知機能の後退にブレーキをかけられます。
長いケースでは、もう15年以上電話をかけ続けている患者さんもいます。
15年前と比べると認知機能はかなり落ちていますが、いまでも介護施設に入らずに自宅療養で済んでいますから、電話の効果は少なからずあるのでしょう。
脳には、ダメージを受けると再生しないという不可逆性がある一方、「代償性」も持ち合わせています。
代償性とは、身体の機能が一部失われると、その機能を果たすべき部位とは別の部位が補助するような働きを見せること。
脳も一部が壊れてしまうと、壊れていない健全な部分が助けてくれるようになるのです。
その一例を挙げると、脳の片側の半球に「脳梗塞」が起こって麻痺すると、反対側の健全な半球が機能を肩代わりすることが知られています。
私が続けているボランティア電話も、この脳の代償性を誘導しているのではないかと考えています。
思い出す作業を繰り返しているうちに、損傷した神経細胞のまわりの細胞が活性化されて、記憶力を補助してくれることを期待しているのです。
患者さんに合言葉や日付を尋ねて答えてもらうことは、医者でなくてもできます。
特別な技術も道具も要りませんし、医療行為でもありません。
認知症は、本人だけではなく、家族が協力して立ち向かうべき病気とされています。
夫の認知機能が落ちたら妻が、妻の認知機能が落ちたら夫が、私と同じように簡単な会話で思い出し作業を続けて、毎日脳を刺激してあげるといいです。
もちろん、ほかの家族の方がサポートしてあげてもいいでしょう。
1日1分でも3分でもいいのです。
続けることが大事ですから、無理せず続けられそうなことから始めてみてください。
老夫婦が同時に認知症になるケースもなくはないでしょうが、大半はどちらかが先に認知機能の低下を引き起こします。
1人暮らしではなく、夫婦で暮らしている場合、どちらかがサポート役を買って出ることで、認知症の進行を遅らせることはできます。
※ポイント 1日1分でも3分でもいいので脳に刺激を与える作業を始めてみましょう
「一生ボケない習慣 より」
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物忘れとは、脳は、体の機能全般をコントロールしている司令塔ですが、加齢とともにその働きは衰え物忘れの症状が出てきます。
脳血管の動脈硬化を放っておくと、血液循環が悪くなって脳細胞の動きが低下し、記憶力や思考力などが鈍り物忘れがはじまります。
40歳を越えた頃から「ど忘れや物忘れが激しくなった」「人の名前がなかなか思い出せなくなった」などと物忘れを感じるようになるのは、脳機能低下のあらわれです。
脳の神経細胞は約140億個といわれ、25歳を過ぎると1日に10~20万個ずつ死滅していきます。
死滅した神経細胞は再生されず物忘れもひどくなります。
しかし、死滅した神経細胞は元に戻らなくとも、神経の通り、すなわちネットワークをよくすれば低下した機能を補い、さらには高めることができ物忘れも改善されます。
物忘れに関する神経伝達物質の中で記憶と学習にかかわっているのはアセチルコリンで、このアセチルコリンはコリンと酵素を原料にしてつくられています。
アセチルコリンの合成にはコリン、ビタミンB1、ビタミンB12などがかかわっています。
同時にこれらの栄養をとることが、アセチルコリンを増やすことにつながるわけです。
通常、コリンはレシチン(フォスファチジルコリン)のかたちで、食材から摂取されます。
レシチンはアセチルコリンの材料になるだけではなく、細胞膜の材料にもなっています。
とくに脳の神経細胞の細胞膜にはたくさん含まれていて、多彩な働きをしています。
血液にのって運ばれる栄養の細胞内へのとり込みや細胞内の老廃物の排出、神経伝達物質の放出や情報ネットワークの形成といった、脳の機能全体に深くかかわっています。
これが、レシチンが「脳の栄養素」と呼ばれるゆえんです。
そのレシチンを多く含んでいる食品の代表が卵黄です。
なお、レシチンをアセチルコリンに合成するには、ビタミンB群が欠かせないため、同時にとることが望ましいのです。
アルツハイマー型認知症の患者の脳脊髄中にはビタミンB12が少ないことが確認されています。
ビタミンB12について?