第2章 認知機能は一度衰えたらとり戻せない
私は毎朝、認知症の患者さんに電話しています。
それは完全なボランティア活動です。
認知症の進行に休日はありませんから、土日も祝日も欠かさず行っています。
数年前、入院した際も個室に入れましたから、入院している最中も毎朝、病室から患者さんに電話をかけました。
担当の看護師さんに、「朝から誰に電話しているんですか?」と尋ねられたので、事情を伝えて患者さんに毎朝電話していることを説明すると、「毎日ですか?すごいですね」とビックリされました。
看護師さんに驚かれながら、入院中も電話をかけていたのは、たとえ1日でも空いてしまうと、その間に患者さんの認知症が進行する恐れがあるからです。
ましてや入院が長くなり、仮に1週間電話ができなかったとすると、あれよあれよという間に認知機能は低下しかねません。
認知症が怖いのは、進行性かつ不可逆的だからです。
何もしないと症状が進んでしまい、一度進んだ症状を、元に戻すのが難しいのです。
難しいというよりも、残念ながら不可能だと覚悟したほうがいいでしょう。
認知症は、脳が部分的にダメージを受けます。
ダメージを受けた部分の脳は、元の健全な状態に戻せないため、認知症は努力次第で進行を遅らせることはできるとしても、治療するのが難しいのです。
細胞は新陳代謝しているので、ダメージを受けた細胞は新たに再生されます(たとえば、皮膚の細胞はおよそ1か月の周期で新たに生まれ変わっています)。
ところが、脳の神経細胞は一度ダメージを受けると、二度と再生しないのです。
だからこそ、認知症予防を自分ごととしてとらえ、できるだけ早いうちから実践することか大事なのです。
脳の神経細胞は互いに連絡して、ネットワークをつくって機能しています。
脳の主要な細胞には、「ニューロン」「アストロサイト」「オリゴデンドロサイト」といったものがあります。
このうちオリゴデンドロサイトという細胞は、新たにネットワークをつくる過程を邪魔するため、神経細胞は再生しないのです。
それはなぜかというと、おそらく神経細胞のネットワークを安定させるためだと考えられます。
神経細胞が無秩序に再生してネットワークがどんどん広がってしまうと、脳がまともに働けなくなるからです。
このしくみが仇となっているのでしょう。
※ポイント 脳細胞は一度ダメージを受けると再生しないからこそ、早めに認知症予防に努めましょう
「一生ボケない習慣 より」
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物忘れとは、脳は、体の機能全般をコントロールしている司令塔ですが、加齢とともにその働きは衰え物忘れの症状が出てきます。
脳血管の動脈硬化を放っておくと、血液循環が悪くなって脳細胞の動きが低下し、記憶力や思考力などが鈍り物忘れがはじまります。
40歳を越えた頃から「ど忘れや物忘れが激しくなった」「人の名前がなかなか思い出せなくなった」などと物忘れを感じるようになるのは、脳機能低下のあらわれです。
脳の神経細胞は約140億個といわれ、25歳を過ぎると1日に10~20万個ずつ死滅していきます。
死滅した神経細胞は再生されず物忘れもひどくなります。
しかし、死滅した神経細胞は元に戻らなくとも、神経の通り、すなわちネットワークをよくすれば低下した機能を補い、さらには高めることができ物忘れも改善されます。
物忘れに関する神経伝達物質の中で記憶と学習にかかわっているのはアセチルコリンで、このアセチルコリンはコリンと酵素を原料にしてつくられています。
アセチルコリンの合成にはコリン、ビタミンB1、ビタミンB12などがかかわっています。
同時にこれらの栄養をとることが、アセチルコリンを増やすことにつながるわけです。
通常、コリンはレシチン(フォスファチジルコリン)のかたちで、食材から摂取されます。
レシチンはアセチルコリンの材料になるだけではなく、細胞膜の材料にもなっています。
とくに脳の神経細胞の細胞膜にはたくさん含まれていて、多彩な働きをしています。
血液にのって運ばれる栄養の細胞内へのとり込みや細胞内の老廃物の排出、神経伝達物質の放出や情報ネットワークの形成といった、脳の機能全体に深くかかわっています。
これが、レシチンが「脳の栄養素」と呼ばれるゆえんです。
そのレシチンを多く含んでいる食品の代表が卵黄です。
なお、レシチンをアセチルコリンに合成するには、ビタミンB群が欠かせないため、同時にとることが望ましいのです。
アルツハイマー型認知症の患者の脳脊髄中にはビタミンB12が少ないことが確認されています。
ビタミンB12について?