第1章 自分ではなかなか気付けない「脳の老化」

第1章 自分ではなかなか気付けない「脳の老化」

脳の老化に気付くのは難しい

 

70代の知人からこんなことを聞かれました。

「高校時代の同級生に10年ぶりに会ったんですが、自分の話ばかりで、私の話をあまり聞いていない様子だったんです。以前と変わってしまったんですが、何かあったんですかね?」

 

脳科学者としての意見が欲しいとのことだったので、こう答えました。

「それは、老人脳になっているのかもしれませんよ」

 

 

脳は通常、30代から少しずつ萎縮が始まります。

そして60代半ばになるとMRI検査の画像を見てすぐわかるくらいの「明らかな委縮」が起きています。

もしそのままなんの対策もせずにいると、脳の老化、つまり老人脳になっていくのです。

 

 

老人脳はその人の行動や生活習慣、そして考え方にまでさまざまな変化を生じさせます。

たとえばこんなことです。

 

  • 新しいことをするのが面倒になる
  • 物忘れが多くなる
  • 集中力が続かなくなる
  • 無配慮になる
  • ミスが多くなる
  • 耳が聞こえにくくなる

 

ここに挙げたのは老人脳の症状のほんの一部です。

 

 

脳のピークは何歳なのか?

 

70代の知人がこんなことを言っていました。

「もう歳なので最近、脳の働きがどんどん悪くなってきているように感じる」

 

そう感じるのは事実だと思いますが、脳の老化現象はずっと前から始まっています。

脳の老化は高齢になってから起きるわけではないのです。

 

 

もちろん個人差があるので、皆が同じということではありませんが、ハーバード大学はじめさまざまな研究機関で調査した「脳力のピーク年齢」のデータでは、こうなりました。

 

(1)情報処理能力のピーク 18歳

(2)人の名前を覚える力のピーク 22歳

(3)顔を覚える力のピーク 32歳

(4)集中力のピーク 43歳

(5)相手の気持ちを読む力のピーク 48歳

(6)語彙力のピーク 67歳

 

 

この数字を見て、どんな印象を持ったでしょうか。

情報処理能力は18歳がピークで、以降はだんだん下がっていきます。

なので、情報処理能力を発揮するような仕事は、脳科学的に見れば若い人のほうが向いているということになります。

 

この数値を見て、「人の名前を覚えられないのは年齢のせいだったのか」と思ったかもしれません。

 

 

「名前を覚える」「顔を覚える」は脳の「短期記憶」に関わる部分です。

短期記憶には「言語の短期記憶」と「視覚の短期記憶」があります。

 

たとえば電話番号をその場で覚えることは「言語の短期記憶」です。

「若いときは電話番号を簡単に覚えられたのに、いまは覚えられない」という人も多いと思います。

家族のスマホの番号を覚えている人は意外に少ないかもしれません。

 

一方で、人の顔を覚える記憶は「視覚の短期記憶」です。

こちらは20代後半から32歳くらいまでは上がっていきますが、それ以降はだんだん落ちていきます。

 

大人数のアイドルグループのメンバーの顔が全く覚えられなくなった。

これは30代半ば以降の人にとっては自然の流れです。

ちなみに、こうした歳とともに能力が衰えていく知能を「流動性知能」と呼びます。

「80歳でも脳が老化しない人がやっていること より」

 

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物忘れとは、脳は、体の機能全般をコントロールしている司令塔ですが、加齢とともにその働きは衰え物忘れの症状が出てきます。

脳血管の動脈硬化を放っておくと、血液循環が悪くなって脳細胞の動きが低下し、記憶力や思考力などが鈍り物忘れがはじまります。

40歳を越えた頃から「ど忘れや物忘れが激しくなった」「人の名前がなかなか思い出せなくなった」などと物忘れを感じるようになるのは、脳機能低下のあらわれです。

脳の神経細胞は約140億個といわれ、25歳を過ぎると1日に10~20万個ずつ死滅していきます。

死滅した神経細胞は再生されず物忘れもひどくなります。

しかし、死滅した神経細胞は元に戻らなくとも、神経の通り、すなわちネットワークをよくすれば、低下した機能を補い、さらには高めることができ物忘れも改善されます。

 

物忘れに関する神経伝達物質の中で記憶と学習にかかわっているのはアセチルコリンで、このアセチルコリンはコリンと酵素を原料にしてつくられています。

アセチルコリンの合成にはコリン、ビタミンB1、ビタミンB12などがかかわっています。

同時にこれらの栄養をとることが、アセチルコリンを増やすことにつながるわけです。

通常、コリンはレシチン(フォスファチジルコリン)のかたちで、食材から摂取されます。

レシチンアセチルコリンの材料になるだけではなく、細胞膜の材料にもなっています。

とくに脳の神経細胞の細胞膜にはたくさん含まれていて、多彩な働きをしています。

血液にのって運ばれる栄養の細胞内へのとり込みや細胞内の老廃物の排出、神経伝達物質の放出や情報ネットワークの形成といった、脳の機能全体に深くかかわっています。

これが、レシチンが「脳の栄養素」と呼ばれるゆえんです。

そのレシチンを多く含んでいる食品の代表が卵黄です。

 

なお、レシチンアセチルコリンに合成するには、ビタミンB群が欠かせないため、同時にとることが望ましいのです。

アルツハイマー認知症の患者の脳脊髄中にはビタミンB12が少ないことが確認されています。

ビタミンB12は、主に動物性食品にしか含まれないというビタミンなので、野菜中心の食生活の人や、ダイエットをしているなど食事の量が少ない人は、ビタミンB12を補った方が良いとされています。

加齢、胃の病気、ストレスなどでも不足します。

さらに、ビタミンB12や葉酸をはじめとするビタミンB群は、ミネラル、アミノ酸などの栄養素と協力し合っているため一緒にバランスよく摂ることがとても重要なのです。

 

ビタミンB12について?

https://www.endokoro.com/