キレる脳は「切り替え力」が弱まっている
「切り替え力」が弱まると、私たちは柔軟性を失って軌道修正ができなくなってしまいます。
保続症の例は病的な症状でしたが、腹外側のセロトニンが欠乏してしまえば、それに近い状況が起きてしまいます。
つまり、1つの考えや行動に固執するようになり、そこから切り替えることができにくくなってしまうのです。
そして、自分の意図に反する物事に対して攻撃的になり、自分の意見を無理やり押し通そうとします。
それでも、ふだんなら「あの人は頑固だ」といわれる程度ですむのですが、セロトニンが絶対的に欠乏すると、攻撃行動が自分で止められなくなってしまいます。
ひどいときには、自分が攻撃行動に出ているという自覚すらありません。
下手をすると、とんでもない事故や事件を引き起こしてしまいかねません。
これが、いわゆる「キレる」という状態です。
最近では、ネクタイを締めた40代、50代の立派なサラリーマンのお父さんが、夕方のラッシュ時の電車やホームで、ちょっと気に食わないことがあっただけで、とんでもない暴行事件を起こしたというニュースをよく耳にします。これなどは、セロトニン欠乏の典型的な症状だと見ています。
しかし、私たちは社会生活をしている以上、毎日毎日、歩いている道の先に障害物があるというのは当たり前のことなのです。
そんなことにいちいち頓着せずに、障害物を避けてまたもとの道に戻るということを繰り返さなくてはなりません。
それができずにすぐにキレてしまうのは、やはり病的というしかありません。
キレることだけではありません。
自殺もまた「切り替え力」の衰弱が大きな原因になってることがわかってきました。
そもそも、脳科学的に見ると、キレることと自殺とは同じようなメカニズムによっています。
キレるという行為が他人に向けられた衝動的な攻撃行動だとすると、自殺は自分自身に向けられた衝動的な攻撃行動です。
向かうものが他人だったか自分だったかが違うだけで、どちらも前頭前野のセロトニンが欠乏したときに起きやすくなる行為であると考えられます。
言い換えれば、セロトニンが欠乏した脳は、衝動的な行動をコントロールできない状況にしてしまうわけです。
自殺とセロトニン欠乏の関係については、実際のデータがあります。
ニューヨークの研究者が、自殺した人の脳を解剖して調べて一般的な病死の人の脳と比較したところ、明らかに前頭前野の腹外側の部分で、自殺者のセロトニンの分泌機能が落ちていることがわかりました。
考えてみれば、衝動的であれ自殺をする背景にあるのは、理想の自分と現実の自分の落差に対する絶望という場合が多いのでしょう。
健康な人ならば、理想にこだわらずに切り替えることができるのですが、セロトニンが欠乏している脳では、そうした「切り替え力」が働かないのです。
※腹外側の働きに障害が起きると、気持ちや考えを切り替える能力が失われてしまいます。
その典型的な症状が、自閉症の患者さんによくみられる「保続症」というものです。
たとえば、いつも歩いている道に、たまたま障害物が置かれていたとします。
すると、保続症の人は障害物の手前で止まってしまって、それ以上歩けなくなってしまうのです。
自分の思った通りに進めない場合、軌道修正ができないわけです。
普通だったら、その障害物をスッとよけて歩いたり、どうしても通れなさそうなときには回り道をすることでしょう。
しかし、保続症の人はそれができません。
困難に突き当たったら、また別の方法を考え、それでもダメなら、また別のやり方に切り替える――健康な人には当たり前のように思えるこうした能力も、実は前頭前野の働きによって左右されているわけです。
「脳科学者が教える「ストレスフリー」な脳の習慣 より」
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最近、電車の中でキレる人を見かけます。
少し前までは、電車の中で暴れるのは酔っぱらいか、普段から暴力的な人と相場が決まっていました。
でも、最近は違ってきています。
しかも、普段はおとなしく、礼儀正しい人なのに、ついカッとしてキレてしまったという人がとても多いのです。
受けたストレスをコントロールすることができず、感情を爆発させ、普段では決してしないような行動をとってしまう、これがいわゆる「キレる」という状態です。
この「キレる」という行為、原因を簡単に言うと、「ストレス」です。
これはまさに「セロトニン神経」の機能低下が原因だと考えています。
セロトニンは脳に静かな覚醒をもたらします。
これは別の言い方をすれば「平常心」をもたらすということでもあります。
平常心を保つというのは、脳の切り換えがスムーズに行われ、どこも暴走も興奮もしていない状態のまま、スムーズに働いているということです。
セロトニン神経の機能が低下すると、感情や精神状態を普段の冷静な状態にキープすることが難しくなることは充分に推測できます。
そしてこのことは、キレる人が朝の満員電車よりも、夜の帰宅時に多いということからも証明されます。
イライラしやすいときは、脳の神経伝達物質であるセロトニン、アセチルコリン、ドーパミンなどが不足していることが考えられます。
そのため、これらの材料となるアミノ酸と、アミノ酸を取り込むために必要な糖分やビタミンB12の不足を疑ってみましょう。
脳を酷使するときには、たくさんのビタミンB群が消費されています。
B群は脳の働きに重要な役割を担っているのです。
神経の働きを整えたり、傷んだ神経を補修したり、タンパク質をドーパミンやセロトニンといった神経伝達物質に作り替えるなど、「脳力向上」のためにもB群は欠かすことができないのです。
ビタミンB12について?