第4章 「高血圧」と「糖尿病」は大きな認知症リスク
脳は血管とともに老いる
生涯現役医師を貫いて105歳で亡くなった日野原重明先生も影響を受けたというウィリアム・オスラーという著名なアメリカの内科医は、「ヒトは血管とともに老いる」という名言を残しました。
血管は、全身に血液を巡らせるために欠かせない人体のインフラ(基盤)ですが、その全長は地球を2周以上する約9万kmに達するといわれます。
地下に埋まった水道管やガス管といった社会的なインフラなら、老朽化したところから交換していけばリフレッシュできます。
しかし、血管はそういうわけにはいきません。
水道管やガス管がダメージを受けると、水やガスの流れがスムーズでなくなるように、血管が古びてボロボロになると血液の流れが悪化します。
全身に37兆個もある細胞が必要とする酸素と栄養素は、血液によって運ばれますから、血管が古くなって血液が滞ると、細胞は満足に働けなくなります。
それが老化に直結するので、「ヒトは血管とともに老いる」というわけです。
繰り返し触れているように、認知症も老化によって起こります。
血管が古くなり、血液の流れが悪くなると老化が加速して、脳の神経細胞がダメージを受けます。
それによって認知機能が落ちてしまうのです。
脳の老化に直結する血管の老化とは、より具体的にいうなら「動脈硬化」です。
心臓から身体の末端まで血液を運ぶ動脈は、しなやかで弾力性に富み、心臓のポンプ機能で押し出された血液を全身の隅々まで運んでくれます。
心臓から送り出された血液が、全身を巡って心臓に戻るまでの時間は、わずか50秒です。
本来はしなやかで弾力性に富んだ動脈が、弾力性を失って硬くなると、血液が流れにくくなります。
そして、「血栓」という血のかたまりができて、詰まりやすくなるのです。
これが動脈硬化の恐ろしいところです。
心臓の血管で動脈が詰まると「心臓病」、脳の血管で動脈が詰まると「脳卒中」が起こりやすくなります。
心臓病と脳卒中は、がんや老衰、肺炎とともに日本人の死因トップ5にランクインしています(出典:厚生労働省「人口動態統計」[2020年])。
動脈硬化が深く関わるのは、認知症のなかでも「脳血管性認知症」と呼ばれるタイプです。
動脈硬化があり、「脳梗塞」や「脳出血」などの脳卒中を起こすと、神経細胞が大量に壊死して認知症が急激に進みます。
これが、脳血管性認知症です。
大きな発作を起こさなくても、脳の血管に動脈硬化で小さな障害がたびたび起こっていると、一進一退を繰り返しながら、脳血管性認知症が徐々に進むこともあります。
脳の血管に動脈硬化があり、血液の流れが悪くなると、アルツハイマー型認知症の原因となるアミロイドβ(異常なたんぱく質)が悪さしやすくなることがわかっています(東京大学医学部付属病院の坂内太郎登録研究員、間野達雄助教、岩田敦講師らのグループによる)。
マウスで慢性的に脳の血流が低下した虚血状態をつくり出すと、神経細胞の間を流れる「間質液」が淀みやすくなり、生じたアミロイドβ同士が集まってくっつきやすくなります。
それが、より毒性の高い「オリゴマー」というものを形成し、神経細胞を障害することがわかったのです。
※ポイント 身体の老化と認知症のリスクを高める動脈硬化に気をつけましょう
「一生ボケない習慣 より」
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血管は「酸化」していくことで傷ついていきます。
たとえば、悪玉コレステロール(LDLコレステロール)が動脈硬化の原因になるということを聞いたことがあるかもしれません。
LDLコレステロール(以下LDL)が血管にへばりついて、プラークと呼ばれるこぶを血管の壁に形成していくのです。
でも、LDLには2種類あることをごぞんじですか?
それは、酸化したLDLと酸化していないLDLです。
LDLの中でも血管に悪さをしていたのは、実は酸化LDLだったのです。
ということは、血管を酸化から守るシステムがしっかりできていれば、酸化LDLは血管に付着しづらくなる。
それが血管老化を防ぎ、血管強化につながるということです。
この、血管の酸化を抑えてくれるのが、実はビタミンなのです。
ビタミンの中でも特に大事なビタミンが、ビタミンCとビタミンEです。
ビタミンCとビタミンEの抗酸化力は、非常に強力です。
心筋梗塞を起こした患者さんのグループが正常のグループよりも血中のビタミンC、ビタミンEの濃度が低かったとする報告もあります。
この2つのビタミンに、ビタミンAを加えた3つのビタミンは、いずれも抗酸化力が強く、ビタミンACE(エース)と呼ばれています。
そしてもうひとつ忘れてはいけない大事なビタミンがあります。
それはビタミンBです。
ビタミンBにはいくつかの種類があり、ビタミンBグループとして存在しています。
ビタミンBの抗酸化力は強くありませんが、細胞のエネルギー産生やエネルギー代謝を効率よくするためにはなくてはならないビタミンです。
体内で起こっている「酸化」の抑制にも間接的に関わっています。
B群は体中の細胞の正常な代謝活動を助ける「補酵素」として、欠かせない存在なのです。
ビタミンB12やB6、葉酸の吸収が悪くなると、ホモシステインという老化物質が増え、動脈硬化を生じることがわかっています。
また、ビタミンBは8種類すべてが互いに協力しあって体のエネルギーを生み出す働きに関わっているため、一緒にバランスよく摂ることがとても重要なのです。
ビタミンB12について?