「無症候性脳梗塞」がもしも、見つかったら・・・
◆ 「心配ない」脳梗塞の正体
「無症候性脳梗塞が見つかりました」。脳ドックを受けたら、医師からそう言われてドキッとした―。
そんな経験がある人も多いのではないでしょうか。
いくら無症候性(症状が見られない)と言われても、「脳梗塞」と聞けば、誰だって不安になります。
ですが、医師の説明によれ、「そんなに心配することはありません。むしろ、脳梗塞予防のためのチャンスととらえてください」と言う。
いったい全体、この「無症候性脳梗塞」とは何者なのでしょう。
「無症候性脳梗塞とは、脳卒中発作の既往歴や神経症状が認められないにもかかわらず、検査などで発見されるごく微小な脳梗塞のことです。
近年は、MRIやCTなどの精度の高い画像検査が普及し、脳ドックを受ける人も増えてきています。
それで、検査によってこの微小な脳梗塞が発見されるケースがたいへん増えてきているのです。
日本のデータでは、脳ドック受診者の約6~14%に見られますが、60歳を超えると20~30%の方に見られるようになると言われています。
“即、大きな発作につながる”ということではなく、むしろいたずらに不安感をつのらせることのほうがマイナスになることすらあります。
だから、生活習慣を改善して健康に生き抜くきっかけを得た、と前向きに考えるように説明する医師が多いのです」
◆ 危険は少ないが、油断は禁物
しかし、差し迫った危険がないとはいえ、何の対策もせずに放っておいていいのかというと、もちろんそうではありません。
じつは、この無症候性脳梗塞を持っている人は、もっていない人にくらべて3~4倍以上も本格的な脳梗塞を起こしやすいとされています。
また、最近の研究では、知覚すらできないほど非常にわずかながら、脳に障害が起こっているのではないかとする説もあります。
だから、油断は禁物。
自分が脳梗塞を起こすリスクが他人よりも高いことを自覚して、高血圧や肥満などのリスクファクターの減少や生活習慣の改善に取り組まなければならないというわけです。
さらに最近では、無症候性脳梗塞をもっと脳梗塞予防のために役立てようという動きも出てきています。
◆ 生活習慣の改善を促す「サイン」
「これまで無症候性脳梗塞自体は、“脳機能に何の障害も与えていない良性の病変”という目で見てしまう医師が大半を占めていました。
しかし、最近の研究で、じつは無症候性脳梗塞は、“無症侯”ではなく、その増加を予防することも重要と思われるようになっています。
現在のところ、無症候性脳梗塞が見つかったからといって、ただちに脳梗塞の予防薬である抗血小板薬を飲むことは勧められません。
むしろ、見つかったことを契機に悪い生活習慣や、脳梗塞の危険因子が明らかになりますので、無症候性脳梗塞が見つかった方は、より早くから脳梗塞予防に取り組めることになるわけです。
そのため、早い段階で無症候性脳梗塞をどんどん見つけ、これをマーカーのようにして患者さんの生活指導に力を入れていこうという方向に、シフトしてきています」
検査でそれが見つかったおかげで、脳梗塞を未然に防ぐことに対して身を入れられるわけです。
これは、猶予期間を与えられたようなものです。
そういう意味では、無症候性脳梗塞が発見されたなら、「ああ、自分は幸運だった」と喜ぶべきとも言えるでしょう。
(エコノミスト より)
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