第3章 5大たんぱく源をとって認知症を防ぐ
認知症を予防するには、「気力」が必要です。
気力といっても、気合で認知症を予防するという話ではありません。
気力とは、何かを成し遂げようとする精神的なパワーのこと。
血液循環をよくするために、座りっ放しを避けて動き回る、脳を活性化するパズルや読書に励む、忘れっぽくなっても思い出そうとする努力を忘れない……。
こうしたことを地道に続けるには、気力が欠かせません。
漢方の世界では、気力が衰えている人に出す薬は、その多くが食欲を促してくれるもの。
簡単にいうなら、食欲増進剤です。
バランスのとれた食事で病気を予防することが、治療することと源は同じとの考え方である「医食同源」が基本の漢方では、食べることで気力が養われると考えます。
これを「補気」といいます。
見方を変えると、食べることは運動ともいえます。
食べものをそしゃくすることが、いかに脳の血流を増やして認知症予防に威力を発揮するかについてはこれまで詳しくお話ししてきた通りです。
日々の食事をおろそかにせず、大切にしてください。
食事に関して、あらためて注意喚起したいのは、「高齢者は和食・少食でいい」という考え方では気力が養えず、認知症とは到底戦えないということです。
慶応義塾大学医学部百寿総合研究センターの新井康通教授らが、日本の100歳以上の「百寿者」を調べた研究では、百寿者にはしっかり食べて栄養素をまんべんなくとる人が多く、体重1kgあたりの摂取カロリーは平均30kcalで成人と同レベルだったそうです。
なかでも増やしてほしいのが、たんぱく質の摂取。
認知症リスクと戦う高齢者の補気に欠かせないのは、たんぱく質なのです。
百寿者の血液を調べてみると、たんぱく質の摂取量と相関する「アルブミン」の値が高いという特徴があります。
脳も筋肉も、身体をつくっているのは、たんぱく質です。
血液内で酸素を運んでいる成分(ヘモグロビン)も、新型コロナなどのウイルスと戦ってくれる抗体(免疫グロブリン)も、たんぱく質からつくられています。
たんぱく質のことをもう少し詳しく説明すると、たんぱく質は20種類の「アミノ酸」からなります。
そのうち9種類は、体内で合成できない「必須アミノ酸」ですから、食事から積極的にとるようにします。
たんぱく質が足りないと、必須アミノ酸を得るために、身体が少しずつ壊れてしまいます。
それは、タコが自分の足を食べてしまうのと同じような振る舞いともいえるのです。
たんぱく質が足りないと、酸素不足で貧血になったり、抗体が減って免疫力が落ちたりします。
そして、筋肉が減ると、血液を巡らせるミルキング・アクションが作用しにくくなり、活発に動けなくなります。
筋肉は使わないと減る一方ですから、動けなくなると筋肉の減少に拍車がかかります。
行き着く先は、「フレイル」(虚弱)です。
フレイルとは、「健常者」と「要介護者」の中間に位置します。
たんぱく質不足と、それにともなう活動不足の状態が続くと、要介護に陥りやすくなるのです。
フレイルも要介護も、認知症発症のきっかけになります。
たんぱく質の1日の必要量は、「体重1kgあたり0.8g」とされています。
体重50kgなら40g、体重60kgなら48gです。
自分の体重から、1日日どのくらいのたんぱく質が必要なのかを計算してみてください。
たんぱく質を豊富に含むのは、「肉類」「魚類」「卵」「大豆・大豆食品」「牛乳・乳製品」という5大たんぱく源です。
それぞれにどのくらいのたんぱく質が含まれるかは、ざっくりでいいので知っておくと役立ちますから、以下に紹介しておきます。
肉類100gは片手の手のひら大のサイズと厚み、魚類100gは同じく片手の手のひら+手指のサイズと厚みだと思えばいいでしょう。
たんぱく質の目安
【肉類】100gで15~20g、ロースハム1枚(20g)で3g
【魚類】100gで15~20g、ツナ缶(水煮70g)で12g
【卵】生卵1個で6g
【大豆・大豆食品】木綿豆腐1丁(300g)で21g、納豆1パック(50g)で8g、無調整豆乳200mlで7g
【牛乳・乳製品】牛乳200mlで7g、無糖ヨーグルト100gで4g
5大たんぱく源をそれぞれ1日1回食べるようにすると、必須アミノ酸をまんべんなく摂取できます。
とはいえ、嫌いなものを無理やり食べる必要はありません。
続けることが重要なのですから、無理せず、自分が好きな5大たんぱく源から必要量をとるようにするといいでしょう。
※ポイント たんぱく質を含む肉・魚・卵・大豆食品・乳製品を積極的にとりましょう
「一生ボケない習慣 より」
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人の体の老化は20代ごろから始まります。
老化は生きている以上避けられないものですが、何をどう食べるかで進行程度が変わってきます。
30代では個人差はさほどありませんが、40歳を過ぎて中年期に入るころからだんだん差が生じ、65歳を過ぎて高年期に入ると、健康状態にはっきりとした差が出ます。
健康寿命をのばす食生活に加えて、年代別の食べ物・食べ方に気をつけると、病気予防がいっそうアップします。
動脈硬化は年齢とともに発症しやすくなり、50代になるとほとんどの人(女性は60代から)に動脈硬化が見られるようになります。
認知症の多くは、脳血管障害の積み重ねで起こり、その原因のほとんどが脳梗塞です。
ですから、脳梗塞の前兆である隠れ脳梗塞を早期発見することで多くの認知症を防ぐことができるのです。
脳梗塞は、高血圧や糖尿病などの病気が原因となったり、生活習慣などによって血液がドロドロになって血液循環が悪くなったりして、血管が厚く狭くなり、脳の血管が徐々に詰まって進行していきます。
一般的に、脳梗塞の初期には、大きさ数ミリ程度の微小な梗塞が数個出現し、段階をへるごとにこの梗塞が脳のあちこちに見られます。
このような症状のないごく小さな梗塞が隠れ脳梗塞(無症候性脳梗塞)です。
「隠れ脳梗塞(無症候性脳梗塞)は、早い人だと30代からあらわれ、40代を過ぎると急に増加するといわれています。
脳梗塞をはじめとする脳血管障害を生活習慣病の一つととらえ、ふだんから健康に保つ生活を心がけましょう。
ビタミンB12やB6、葉酸の吸収が悪くなると、活性酸素やホモシステインという老化物質が増え、動脈硬化を生じることもわかっています。
ビタミンB群は、体に入った栄養成分をエネルギーに変えるときに不可欠なビタミンの仲間です。
また、脳の神経伝達物質の合成すべての段階に関わっています。
神経の働きを整えたり、傷んだ神経を補修したり、タンパク質をドーパミンやセロトニンといった神経伝達物質に作り替えるなど、「脳力向上」のためにもB群は欠かすことができないのです。
ビタミンB12について?